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RGPジャパン

タイの会計・税務制度について


倉地準之輔:Junnosuke Kurachi BizWings (Thailand) Co., Ltd. 代表・RGPコンサルタント・公認会計士 

日本国内にて大手監査法人、外資系メーカー勤務を経て2013年来タイ。外資系会計事務所勤務ののち2015年10月にBizWings (Thailand) Co., Ltd.を設立。経営コンサルティング業務を提供し、現在に至る。複数の公的機関において日系企業向け経営アドバイザーを務めるとともに、タイ会計・税務・ビジネスに関する寄稿・講演・コンサルティング実績多数。東京大学経済学部経営学科、米ケロッグ経営大学院卒業(MBA)。


~日系企業にとって理解するべき概観をそれぞれ解説~


会計・税務制度概観

1. 会計

(1) 会計基準

 通常TFRS for NPAEs(公的説明責任を有さない企業向けタイ財務報告基準)が適用される 。TFRS for NPAEsはタイで適用されている2つの会計基準の1つ(もう1つはTFRS(タイ財務報告基準))であり、タイ進出日系企業を含むタイ証券市場に上場していない企業に適用される会計基準である。TFRSはIFRS(国際財務報告基準)のタイ語版であり、TFRS for NPAEsはTFRSを簡略化したものであると理解すればよい。


(2) 報告義務

 会社の会計年度にあわせて財務諸表を作成し、公認会計士による監査を受けたうえで、決算日から 4 ヵ月以内に開催される定時株主総会により承認を受けなければならない 。また、定時株主総会から1ヵ月以内に、商務省という会社登記書類を所管する政府官公庁への登記を行わなければならない 。株主総会承認済みの財務諸表の構成要素は『財政状態計算書』『損益計算書』『持分変動計算書』『財務諸表注記』であり、『キャッシュ・フロー計算書』の作成は任意である。なお、会計年度は任意に決定できるが、12ヵ月を超える決算は認められていない 。


(3) 財務諸表監査

 全ての会社が公認会計士による財務諸表監査を受け、決算日における財務諸表に関する監査意見を入手しなければならない 。従い、日本で財務諸表監査を受けていない会社であっても、タイ子会社が財務諸表監査を受けなければならないという状況が発生しうる。また、監査報酬および監査の質には極めて大きな幅があり、自社が財務諸表監査で何を得たいのかを明確にする必要がある。そして、公認会計士は慢性的な不足傾向にあり、いつも多忙を極めているため、タイの法定監査期限以外の期日(例:親会社側の連結財務諸表作成に必要な報告期日)については、対応がなされない場合もあり、事前のスケジューリングが重要となる。


1. 税務

(1) 税制概要

タイにおける税目およびその内容は以下の通りである。

国税

  • 法人税:会社の利益に課される税金

  • 個人所得税:個人の所得に課される税金

  • VAT(付加価値税):日本の消費税に相当する税金

  • 石油所得税:石油・天然ガスの採掘者に課される税金

  • 特定事業税:銀行・証券・生保・不動産販売等、特定の事業に課される税金

  • 印紙税:土地建物賃貸・株式譲渡・ハイヤーパーチェス・借入契約等、特定の証書に課される税金

  • 相続税:土地等が相続された際の評価価格に課される税金

  • 物品税:奢侈品やエンターテイメントに課される税金

  • 関税:物品の輸出入に課される税金

地方税

  • 土地家屋税:土地建物(除く居住用)の所有者に課される税金

  • 看板税:収益事業目的で使用されている看板の所有者に課される税金

国税のうち法人税、個人所得税、VAT等については『歳入法典』という法令に定めがあり 、それ以外についてはそれぞれ別個の法令が存在する。また、『歳入法典』関連税制については、詳細規定として以下のような詳細なルールも存在する(図表2)。


歳入法典関連税制の詳細規定法令

  • 勅令(Royal Decree)

  • 財務省令(Ministerial Regulations)

  • 財務省告示(Ministerial Notification)

  • 租税委員会の正式見解(Board of Taxation‘s Rulings)

  • 歳入長官告示(Notification of the Director General of the Revenue Department)

  • 歳入局規則 (Departmental Regulations)

解釈

  • 歳入局告示 (Departmental Notification)

  • 歳入局通達 (Departmental Instructions)

  • ルーリング(Ruling)- 個別項目に対する歳入局見解

また、一部税制には、二国間の徴税に関する条約である租税条約も関連する。いずれの根拠法令、詳細ルールについても公開情報であるので、基本的には税務上の疑問点については、関連法令等をあたることで解消していくことになる。


(2) 税目詳細および報告義務

 本稿では日系企業の殆どに関連する法人税・個人所得税・VATのみ解説する。

 法人税は、中間決算日より2ヵ月以内に実施される中間申告と、期末決算日後150日以内に実施される確定申告により納付しなければならない。税率は20%(ただし、中小企業向け軽減税率あり)である 。

 個人所得税は、課税年度期間(1月1日~12月31日)の翌年3月末までに確定申告により納付しなければならない。また、会社は、従業員に対して個人所得税の計算対象となる所得を支払う場合、毎月個人所得税の源泉徴収を行い、翌月7日までに納付しなければならない。税率は累進課税で最大35%である 。

 VATは、毎月受け取ったVAT(売上VAT)から支払ったVAT(仕入VAT)を控除したVATの金額を翌月15日までに納付しなければならない。税率は7%である 。

 なお、上記いずれの期日もインターネット申告によって行った場合8日間延長される 。


(3) 税務調査

 タイの税務調査はランダムで実施される。ただし、税金の還付申請を行うと、還付金額が少額である場合をのぞき、基本的に税務調査が実施される。基本的な進み方は、歳入局署員から税務調査を実施する旨の連絡が来て、提出指示を受けた書類を提出、それに対する歳入局署員からのフィードバックに対応する、という流れで進む。歳入局署員の権限は強く、会社にとって不合理と思われる指摘がなされる場合もある。税務調査の対象となるのは申告書提出期限から2年間までであるが、脱税の疑いがあると判断された場合5年まで延長される 。仮に追徴課税がなされた場合、加算税については追徴税額の最大200%、延滞税については追徴税額の1.5%が月単位で付加(ただし、最大追徴税額まで)される。


会計・税務・重要な留意すべきポイント

1. 赤字取引の取扱い

 いわゆる赤字取引(売上額より売上原価額の方が大きく、粗利益がマイナスになる取引)について、歳入局が適切と考える利益率を満たす売上額で取引がなされたとみなして法人税・VATを追徴課税される事例が見られる。歳入法典上、法人税・VATともに市場価格より低い対価が取引がなされたと判断した場合、市場価格で取引がなされたとみなして課税することができる旨の規定がある 。歳入局は当該規定を背景に、赤字取引を生じさせる売上価格は市場価格より低いとして、適切と考える利益率を満たす市場価格に基づく売上高、利益に対して法人税・VATを課税するのである。

 この点、多くのケースで事業上の合理性(例:単一品目については赤字取引だが、取引相手全体としては黒字取引である)は考慮されず、機械的に赤字取引について上記理由に基づいて追徴課税が行われている。現実的には難しいであろうが、赤字取引を発生させないようにすることが最良の防御策になるであろう。


2. 駐在員をPEとみなす課税

 駐在員を日本の親会社のタイにおけるPEとみなして課税を行う事例がみられる 。本事例における歳入局の見解によれば、駐在員は親会社のサービス(コンサルティング)PEであり、駐在員の人件費相当額を親会社が収受するサービス料として法人税・VATを納税し、かつ、駐在員のタイ国内勤務に関する所得として個人所得税を納税しなければならないとされる。当然のことながら多くの日系企業は駐在員の人件費については親会社に対するサービス料としては捉えていないため、特に法人税・VATについて膨大な追徴課税が発生することになる。

 他方、タイ歳入局の公開文書として『駐在員をPEとみなす条件のチェックリスト』といったものが存在するわけではなく、残念ながら対策については明らかではない。歳入局の見解から判断するに、駐在員の親会社との雇用関係が継続していることが重要な判定ポイントとなっていると推察できるため、駐在員を出向(親会社との雇用関係が継続する)ではなく、転籍(親会社との雇用関係が継続しない)させればよい、という結論も導きうるが、日系企業の労働環境を考えればこれも難しいであろう。以上踏まえれば、日系企業としては駐在員派遣には一定のリスクがあることを認識したうえで、個別ケースごとに歳入局と協議していくのが次善の策になるということになる。


3. 海外企業を介する国内物品販売のVATの取扱い

 商流についてタイ法人A社→日本法人B社→タイ法人C社とする一方、物流についてはタイ法人A社→タイ法人C社としてタイ国内で完結する物品の販売取引があると仮定する。この場合、タイ法人A社にとって当該取引は商流上は国外取引(請求先が日本法人B社)となる一方、物流上は国内取引(物品はタイ国内で完結)であることになるが、この場合タイのVAT規制上、VATの課税取引と解される。VATの輸出免税(0%課税取引となる)が適用されるのは、あくまで物品が海外に物理的に輸出された場合に限るためである。

 このため、タイ法人A社は日本法人B社に送付するインボイスにおいて、品代に7%のVATを付加してタックスインボイスを発行の上、請求しなければならない。仮にタイ法人A社がタックスインボイスを発行せず、7%のVATを納付しなかったことが税務調査時に発覚した場合、追徴課税が発生することになる。


会計・税務についての重要な最新動向

 

1. 会計基準の改正

 TFRS for NPAEsが12年ぶりに改正され、新たなTFRS for NPAEsが2023年1月1日以降開始する会計年度に適用されることとなった 。今回の改正は、旧TFRS for NPAEs施行以降様々な要因により複雑化したビジネスモデルや事業環境をカバーするべく、会計基準の追加、改正により会計基準の網羅性を確保することが主たる目的となっている。本改正により、以下(図表3)の会計基準が追加されるとともに、財務諸表表示における包括利益、連結財務諸表、デリバティブ会計、および機能通貨がいずれも任意適用事項として新たに会計基準に盛り込まれることとなった。また、収益認識の基準において、カスタマー・ロイヤリティー・プログラムおよび本人・代理人の概念が追加された。

 他方、本会計基準の日系企業への影響は、一般的には限定的であると考えられる。例えば従前から義務化されていなかったキャッシュ・フロー計算書および税効果会計については会計基準に盛り込まれず、適用義務は引き続きないこと、および追加された会計基準等も適用対象となるケースは限定的であると思料されることによる。一方、自社に該当する事項があるかについては、一度検討を要することは言うまでもない。


追加される会計基準

22章 農業(Agriculture)

23章 政府補助金(Government Grant)

24章 デリバティブ(Derivertives)

25章 企業結合(Business Combination)

26章 鉱物資源の探査および評価(Exploration for and Evaluation of Mineral Resources)

27章 サービス委譲契約(Service Concession Agreement)


2.移転価格税制導入

 タイでは2019年1月1日以降開始する事業年度において移転価格税制が適用になった。適用対象は売上高2億バーツ以上の法人であり、適用対象となった会社は、法人税の申告時に関連者および関連者取引の内容を記載する開示フォームの提出が必要となる。また、歳入局からの要求があった場合、原則60日以内(初回は180日以内)にタイ語で作成した移転価格文書の提出を行う必要がある。これらの義務を懈怠した場合、最大20万バーツの罰金が科される 。

 移転価格文書の内容については原則OECDの「BEPS行動計画13:多国籍企業の企業情報の文書化」に準拠した内容となっており、日本で移転価格文書対応済みの会社にとってはそれほど困難は無いと思われる。他方、そうでない会社にとっては、文書化がタイ語である必要もあることもあり、迅速な対応が望まれる。


3.租税条約改正

 日本のBEPS防止措置実施条約適用の流れの中、日本とタイの租税条約についても2022年3月末に通告がなされ、2023年1月1日以降適用になった 。適用となった条約の規定は以下の通りである。


日タイ租税条約の規定

第6条1(租税条約は二重非課税の機会を生じさせるものでないことを明らかにする前文の規定)

第7条1(取引等の主要な目的が租税条約の特典を受けることである場合にその特典を認めない規定)

第12条1及び2(恒久的施設を構成するものとされる代理人に関する規定)

第13条2(事業を行う一定の場所を通じて行われる場合においても恒久的施設を構成しないものとされる活動に関する規定)

第13条4(関連者間で細分化された事業活動を組み合わせて恒久的施設を認定する規定)

第15条 (企業と密接に関連する者の定義に関する規定)

第16条2第二文(相互協議の合意を実施する義務に関する規定)


PEに関する改定が多く含まれることから、これらに該当する可能性のある会社においては特に自社への影響を検討することが望まれる。


4. 人権対応・ESG開示への対応

 在タイ製造業の企業はグローバルなサプライチェーンの一部に組み込まれることも多く、その中で人権対応や 、温室効果ガス排出量開示 に関する関心が高まりを見せている。現時点ではタイの法制度上求められている内容ではないものの、事業上必要な対応になりつつあり、早晩日系企業にとって対応が必要になると思料される。


おわりに

タイにおける会計・税務に関する概要および重要ポイント、そして留意すべき最新動向について議論した。実際のところ、日系企業がタイの会計・税務の詳細まで理解したうえで業務を遂行するのは容易ではない。そもそもタイの会計・税務の詳細を理解しようとすれば膨大な時間が必要であるし、仮にタイ人ローカルスタッフに質問しようにも、基本的に業務遂行にあたってはタイ語という特有の言語が用いられるのに加え22、タイ人管理業務スタッフの英語力が高くない場合も少なくないため23、情報を引き出すのも一苦労、となることも多い。駐在員にとっても、メインの業務がある中で会計・税務に時間を割いてばかりもいられないであろう。

そこで、筆者は折に触れて日本人専門家に相談することを勧めている。タイは日系企業が集積しているがゆえに、それらをサポートする日本人専門家も多く存在する。また、公的機関も多く進出しており、そのいくつかでは日本人専門家による無料相談を受け付けているところもある。 このブログを通じて、制度に関する概要を理解した後、自社の個別ケースがどのように判断されるかについては、適切な日本人専門家に照会するのが時間的にも想定される判断の質的にも良いケースが多くなるように思われる。これを契機として、皆様がタイ進出における会計・税務実務上の留意点に気づきを得、タイにおける業務遂行を円滑に進める一助として頂ければ幸いである。


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