松本 雅利(まつもと・まさとし)
リソース・グローバル・プロフェッショナル・ジャパン株式会社
コンサルタント
米国ゲーム会社の日本法人を皮切りに、比較的外国人の揺さぶりに弱い小さな外資系企業と、仏系自動車会社など比較的大きな外資系でキャリアを積んできた。今はRGP所属のコンサルタントとして日々の 業務にあたるとともに、ビジネスパーソンのSNS、LinkedInクリエーターとして情報発信もおこなっている。
24時間働けますか
バブル景気に沸いたころに、「24時間働けますか」という栄養ドリンクの広告のキャッチコピーがありまし た。世界中を飛び回るビジネスパーソンは休んでる暇がない、だからこの栄養ドリンク飲んで頑張って、という意味だったらしいですが、視聴者に与えるこのキャッチコピーの印象は、365日働きづくめで金を稼ぐ、そんな印象だったと思います。
それでは、いつ休めばいいんだろう、と思っていたのは事実ですが、バブルが崩壊してしばらくしたころ、ジル・A・フレイザー著・森岡孝二監訳『窒息するオフィスー仕事に強迫されるアメリカ人』(2003年、岩波書店)という本に巡り合いました。
アメリカ人は家でも常にパソコンが手放せず、バカンスに行った先でもプールサイドでパソコンを開けてメールチェックするという内容の本でした。つまるところ24時間、パソコンに向かい合って、仕事から離れられない。パソコンなどの技術の進化で24時間いつでも仕事ができる環境になって、逆に忙しくなった、そんな内容の本でした。
今はスマホも登場し、パソコンを持ち歩かなくても常に仕事が追っかけてくるようになりました。その光景が、今では世界中の至る所でみられるようになってしまいました。もちろん、メールを打つと「何月何日まで不在にしております。メールヘのアクセスは限定的になります」という返信が自動で返って来たりしますが、休んだ日が平日だったりすると、たとえ完全なる有給休暇であったとしても、メールをみてしまいます。だから、そういう不在メールが来ていても、返信が入ってくることも珍しくありません。
余談ですが、その時勤めていた会社の米国本社に国際会議があって出張したとき、どうしてパソコンがノートなのかを聞きました。そこで返って来た答えは「盗まれるから」。つまり、ノートなら、ロッカーかキャビネットに鍵をかけることで盗難を防ぐことができる。でも、それがパソコンをすぽっとカバンに入れて持ち帰るようになり、家でも仕事をするようになったのですね。
オンとオフ
こうなると、オンとオフはどうなるんだろうと思ってしまいます。筆者は基本的にどんなに遅くなっても会社のなかでのみ仕事をし、終わってオフィスを一歩出ると仕事を忘れるようにしてきました。オンとオフを明確にしないと、外資系の場合、特に地球の裏側の国相手だと、文字どおり24時間働きづくめになりかねないからです。
ただ、そんな筆者も昨年はコロナの関係で半年ほど家で仕事をしていました。夕食を食べた後も、パソコンに向かうことも多かったです。家でネットワークに入ると、その会社は日本法人で50人くらいでしたが、 0時近くまでオンライン会議システムにログインしている人数が常に10はありました。そして朝9時には再び、緑色のログインしているサインのランプが並ぶのです。外資系の場合は、地球の裏側がビジネスアワーなのでどうしようもないといえば、どうしようもないのですが、コロナ禍のリモートワークでは、オン・オフの気持ちのリセットに苦労します。
このコロナ禍で、「オフ」の休みはみんなどうしているんだろうか、有給休暇は取っているんだろうかと思って探してみるとこのようなデータがありました(図表1)。これは旅行サイトのエクスペディアが 2020年に調査したデータです。
日本人の有給休暇取得率は45%。もともと有給休暇が取りにくい会社環境の日本ですが、では、コロナ前はどうだったんだろうと2019年の同じエクスペディアの調査(図表2)をみてみると50%です。では、なぜ有給休暇を取らないのでしょうか。 その理由は1位「緊急時のために取っておく(30%)」、2位「人手不足など仕事の都合上難しい(22%)」、3位「新型コロナウイルスの影響でどこにも旅行がで きない(12%)」となっています。
この1位と2位はコロナ禍前も後も変わらないようです。ちなみに日本以外だと1位が「新型コロナウイルスの影響でどこにも旅行ができない」が33%、「緊急時のために取っておく」が27%、「お金がない」が22%でした。
休暇旅行というと思い出すことがあります。5年ほど前のことですが、その会社は世界中の関係会社から人が在外研修で来ていました。英国から来たその女性は、1カ月の有給休暇を年末までに消化しなければならず、ほぼ毎週末、金曜か月曜を休みにして近県を2泊3日で旅行して、数力月に1回は1週間の休みをとってアジア隣国、北海道、沖縄などを旅行していました。
英国のCPAの資格を持った仕事のできる方でしたが、オンの時はしっかり仕事をし、休む時はしっかり休む。彼女だけでなく海外のいろんな部署の人とメールのやりとりをしましたが、「10日ほどお休みするので緊急の時は同じ部署のAさんにコンタクトしてくれ」などの返信をよくみました。そして夏や年末のホリデーシーズンには当たり前のように不在メールを受け取っていました。つまるところ、オフは有給休暇で旅行に行くものというのが、通念であるからこそ、有給休暇を取らない理由のトップが「新型コロナウイルスの影響でどこにも旅行ができない」になるわけです。
一方で、日本人社員は、ほとんどは一斉に休む日が決められて初めて休んでいました。もともと有給休暇を取得しにくい会社社会の環境のせいか、コロナ禍でも休みに対する考えは変わらないのです。そして、オン・オフの境目はぼんやりしています。
経理という仕事のオン・オフ
経理という仕事は毎日やるべきこと、1カ月にやるべきこと、半年に一度やるべきこと、そして1年に一度やるべきことが決まっています。ある意味、季節による仕事の濃淡がはっきりしていて、オンとオフが切り替えやすい環境といえるように思えます。
ただ、日本の場合は、コロナ禍や、リモートといった以前の問題で、それぞれの会社、自らの意識のなかで「休暇」という存在をよく考えていく必要があるような気がします。
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