
松本 雅利(まつもと・まさとし)
リソース・グローバル・プロフェッショナル・ジャパン株式会社
コンサルタント
米国ゲーム会社の日本法人を皮切りに、比較的外国人の揺さぶりに弱い小さな外資系企業と、仏系自動車会社など比較的大きな外資系でキャリアを積んできた。今はRGP所属のコンサルタントとして日々の 業務にあたるとともに、ビジネスパーソンのSNS、LinkedInクリエーターとして情報発信もおこなっている。
ジャパン・アズ・ナンバーワン
外資系でも日本での歴史の古い会社は、会議の前に根回しが必須と聞いたことがあります。参加するメンバーに会議の着地点について伝え、開催前に合意を得ておくのです。もちろん、異論があれば説得、もしくは合意のための議案の修正を図ります。欧米の企業は喧々諤々の議論と思いがちですが、その話を聞いた時は正直驚きました。日本にほぼ土着といっていい外資系企業はもう日本企業と変わらなくなるというわけか、と妙に納得もしました。
ただし、そこで働く外国人、海外の本社、取引先の人間にとっては 、日本流は通じません。言い方を変えれば理解されないということです。20年、30年と生まれ育った土地で染みついたやり方、彼らが働いてきた海外での会社の仕事の進め方は日本とは違うし、まして日本という存在が自らの人生で接点がなかった場合 、あくまで「オレ流」を通そうとします。なんでそうするんだ? 本社ではそういうやり方はしないぞ、とか、思ったかもしれませんが、それでも、日本流に馴染んでいったのではないかと思います。それは、かつては日本という国が伸びしろのある、外資系にとって魅力のあるマーケットだったからです。エズラ・F ・ヴォーゲル著『ジャパン・アズ・ナンバーワン』が世界で読まれ、不承不承、彼らは経済大国の日本流に従ったのだと思います。
しかし、今では外資が東京での事業展開を次々と縮小、閉鎖をしてきています。

図表は経産省が定期的に調査している外資系動向調査から筆者がまとめた表です。ご覧いただくとわかると思いますが、確実に米企業が減っています。その一方でアジア系および中国系企業が増加しています。いずれも2005年対比で倍増しています。製造業は少しずつですが減ってきています。工場のようなファシリティがあると撤退は難しいですが、それでも減ってきているということでしょう。
一方で、工場を持たず、商社機能しか持ち合わせてない外資系はクローズし、代理店経由での商売に切り替えるか、規模を縮小、駐在員レベルまで下げてきたりしています。その分、機能が拡大したのは、上海、香港、シンガポールといった地域です。それまで米国本社に報告していたものが、こういった地区にできたアジア本社に送るようになってきました。それだけ、日本マーケットよりも、中華圏のマーケットが拡大してきたことが大きいと思います。私の外資系キャリアでのカウンターパートは、ここ10年はもっぱら華人でした。
あわせてインターネットの存在も大きい。つまり、日本の拠点では実纖値をERP端末に日々の売上の数字を入れればよく、即座に本社はその把握ができる。資金面でも海外のシェアードサービスを使いグループ内で資金調達。海外の外部委託先から日本国内へ振込手続を行います。そして、ハイペリオンのような報告用のシステムからデータを取り込み、あとは、アジアの拠点が日本から上がってきた数字をレビューします。問題や疑間を持てば、拠点から質問が飛ぶし、定期的に地区の担当者会議が開かれますが、当然、そこでは日本の論理は通じません。あくまでも、本社のある国の理屈で、日本にいろいろなケースを押し付けてきます。
日常的な風景としての外国人

自分は日本の企業で働いている。だから海外との交わりは考慮することはない、という考えは持たないほうがよいかもしれません。たとえば、そもそも日本のシャープが台湾企業の傘下に入ると誰が予想したでしょう。シャープといえば、亀山工場のテレビ液晶モニターもそうだし、かつてはザウルスというタブレット端末の原型と言っていいPDAも出していました。その頃のビジネスパーソンの必須アイテムといってよい商品でした。それがあれよあれよという間に経営難に陥り、結果、台湾のホンハイの傘下に入りました。日産自動車も経営危機ののち、今ではルノーが全体の株式の43.7%を持っています(その後15%に引き下げ)。今後、コロナ、円安で経営が立ち行かなくなったとき、会社の存続を考えると会社が外資になることは十分に考えられます。また、最近はアジア、特に中華圏の留学生が多く来日しています。彼らの多くも日本での就職を希望しています。あなたの部下に外国人が入るかもしれないのです。では、その時、外国人にどう接すればよいのでしょうか?次の文章をみてください。
東京チャイナタウン計画

コーヒーを飲み終えると、東京駅前のハイアールビルにある会社に向かう。「大崩壊」の前は丸ビルの愛称で知られていたが、いまや覚えているひとはほとんどいない。それ以外にも、サムスンプラザやタタ・ヴィレッジなど、東京都心の主要ビルはほとんどが外国企業の所有になってしまった。私が契約営業マンとして働いているのはかつての財閥系大手不動産会社で、いまでは親会社もろとも中国の投資会社に買収され、社員の半分が華人(中国人、香港人、シンガポール人)になった。CEOはスタンフォード大学でMBAを取得した30代の中国系アメリカ人で、華僑などから集めた資金で買収ファンドを組成し、東京の都心部に富裕層向けのチャイナタウンを建設しようとしていた。不動産バブル崩壊とともに年率10%を超える驚異的な経済成長が終わった中国は、政治の季節を迎えていた。重慶や成都のような内陸部の大都市だけでなく、先月はついに北京でも大規模な民主化デモが起こり、天安門広場を占拠して警官隊と衝突した。海外メディアは、共産党指導部は人民解放軍の出動を検討したが、軍事クーデターを恐れて断念せざるを得なかったと報じた。共産党の一党独裁のもとで市場経済を導入した中国では、富裕層は国や地方政府の共産党幹部との「関係(グワンシ)」で莫大な富を築き上げてきた。民主化によって共産党の独裁が終われば、過去の不正蓄財が徹底的に調べ上げられるのは間違いない。そのことに気づいた彼らは、いまや自らの資産を守ろうと必死になっていた。中国社会が動揺するにつれて、ファンドには莫大な資金が流れ込んでくるようになった。最初は50億ドルでスタートしたのだが、それがいまでは1000億ドル規模にまで膨張した。通貨の信用が失墜しても、日本人が戦後、営々と築いてきた社会インフラの価値は変わらない。東京のように、上下水道や電気・ガスはもちろんのこと、公共交通機関が網の目のように発達し、若い女性が深夜でも一人歩きできるほど治安がよく、ミシュランの星を獲得したレストランがあちこちにあるような高機能の都市は世界でもまれだ。」
出所『国家破産はこわくない日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル改訂版』(ダイヤモンド社)
これはビジネスの著作の多い橘玲氏の著作からの引用ですが、債務増大で国家破産、中国も混乱のなかでの日本の姿を小説で表したものです。丸ビルは2020年現在、所有者である三菱地所とともに健在ですが、東京駅八重洲口には香港系のデベロッパーのオフィスビルが立っています。この本は7年前の出版ですが、この小説にあるように外資が誰もが知る日系企業を飲み込む事態が起こらない確証はありません。それが中国か米国かはわかりません。いずれにしても、形だけの日本企業が増えることは十分に考えられます。また、会社自体は業績もそこそこあるし、そして技術力もある会社が、後継者がおらず身売りするケースが多いと聞いたことがあります。私自身が籍を置いた会社は、大手同士で合弁で作った会社を中国の企業に売却しました。こういうケースは確実に増えるでしょう。
また、コロナ禍のなか、世界中のビジネスパーソンが利用しているSNSのLinkedInでの海外企業の求人で、リモートでの仕事、面接も当然オンラインで、給与は2,000ドル、ドルでの支払、そういった求人も見られるようになりました。語学をモノにし、外国人との対応を考えておけば、日本にいながら海外企業のファイナンス業務でキャリアを積むという選択もアリなのかもしれないのです。
これからの外国人との接し方とは
筆者が外資という領域に触れたときは、もう30年以上前ですが、この20年ばかりの間に、英米人だけでなくアジア系の外国人と仕事することも多くなりました。アジア本社を、シンガポール、香港、中国上海、北京に置くようになり、カウンターパートに特に華人系が増えました。華人系は同じ東洋人であっても日本人とは明らかに違うし、最近は現地採用の華人も増えてきました。
今後、ファイナンスという仕事で外国人と接するとき、日本人はファイナンスのシチュエーションのなかでどう振る舞えばよいのでしょうか。自分の経験もベースに、さまざまなパターンをサンプルとして取り上げます。
もちろん、彼らの習うべき点は習うこともあるかもしれません。本連載では、さまざまな局面での外国人との接し方について論考を進めてみたいと思います。
【参考文献】
橋玲「国家破産はこわくない一日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル【改訂版]」(ダイヤモンド社)「2020外資系企業総覧」(週刊東洋経済臨時増刊)
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